バイオリン

MBTIやエニアグラムに関する哲学的な考察及び、日々考えたことについて

MBTIの哲学的基礎づけ(9)判断機能①

判断機能について深堀

 判断機能について、さらに深堀します。判断機能は世界に境界線を引くことであり、言語活動の機能に関係します。ここで、判断機能に対して取りうる態度は大きく分けて2つあります。それはあらかじめいうと、固有性=FiTeと一般性=FeTiになります。

 古来からある二分法であり、固有性が具体に一般性が抽象に該当します。ギリシャ哲学ではプラトンが善のイデアを最高位のイデアとしましたが、イデアは一般性に該当する概念です。またアリストテレスは個物のほうを第一実体として優先的に取り扱い、述語=一般性を第二実体とし二次的なものと捉えました。その先に不動の動者と呼ばれる実在を観照している点では、結局はNiSe的な価値観をどちらも持っていると言えますが、それはともかく、固有性と一般性の対応は固有性が個物、具体、主語に対応し、一般性が普遍、抽象、述語に対応しています。

固有性
 固有性とは世界内に存在する具体的な事物に相当します。りんごというグループが一般性であり、個々のスーパーなどで売っているリンゴそれぞれが固有性に対応します。そして究極的には固有性の意味とは<この>という指示代名詞にあります。
 スワンプマンという思考実験があります。全く自分自身と同一のコピーがある日湖の上で雷のせいで作られてしまったら、そのとき自分の意識はどちらに存在しているのだろうかという問いです。この時ポイントとなるのが、全く同一であった場合にはそもそもコピーが存在するという事実さえわからないため、この思考実験が有効になるためには、コピーされた次の瞬間から違う化学組成やニューロンシナプス間の電位がなくてはならないということです。
 それではこの思考実験で固有性に関して言えることとは何でしょうか。それは「どちらの可能性もありえたのに現に<この私>の視点から見えている」という事実が固有性に対応します。ポイントは可能性をいったん経由している点です。可能性を経由しなければあり得たかもしれなかったのに現になぜだか私はこの私であるという差異さえ認識ができないからです。また、これは人間に限らずこの世界全体に対しても言えます。
 物理定数が現にこのようなものではなかった世界もあり得たのに、<この世界>はこのような物理定数で成立しているという点です。
 前者がFiに対応し、後者がTeに対応するでしょう。この場合どちらも<この現実>にフォーカスを与え続け、あり得たかもしれないのに現に今このようになっているということ自体に価値を置きます。つまり固有性とはこの現実そのものを指しているといっても過言ではありません。

一般性
 一般性とは世界内に存在する具体的な事物の属性を指します。また一般性は<この>という指示代名詞を無化する方向性にいきます。そのため、具体的事物や現実的な存在よりも可能性一般に焦点を合わせます。よってスワンプマンの場合は、自分自身と同一のコピーが作られたとしても、それはどちらもが自分であり、何の疑問も不思議も感じることは原理的にあり得ず、本質的にこの問題の意図を理解しません。なぜなら、どちらの可能性もありえたのに、なぜ<この私>の視点からなのかというこの、なぜ<この>を理解しにくいからです。
 また別の比喩で言うと、設計図と設計されたものの違いが前者が一般性、後者が固有性に該当します。もし神様が存在したとして、この世界のすべての設計を考えたとします。そして、その設計をそのまま頭の中で可能性として理解するのと、そこからある種「光あれ」といって、世界を作り出してしまうことの”差異”が一般性と固有性の違いです。
 固有性からしてみたら、その差は歴然としていて、可能性の中にとどまっているのと、”実際に”作り出すのは別物のように思えます。しかし、一般性の側からしてみたらその作り出すという行程さえも設計済みなのであり、わざわざ”実際に”と強調する意味が分かりません。
 これはなぜあなたはあなたなのかという問いに意味を感じられるか否かということにも対応します。固有性の側からしてみたら、様々な可能性がある中で現にこの私から世界が開けていること、これを永井均の用語で独在性、もしくはウィトゲンシュタインの私的言語と呼びますが、この固有性そのものを明確に認識します。
 しかし、一般性からしてみたらあなたが感じているその独特の固有性というものはただの神経回路の作用に過ぎないし、それをわざわざ強調する必然性を理解しません。それはこの現実よりも可能性を重視しているためです。つまり、現実というのは可能性の一部にしか過ぎないと考えるのが一般性です。

判断機能図

    有限  無限
固有性 Fi            Te

一般性    Fe           Ti